Race for Resilienceハッカソン 石巻会場レポート

Race for Resilienceは「発展途上国×防災・減災」をテーマにしたグローバルハッカソンです。アジア数カ国およびハイチ、ロンドンでのハッカソンの後、各国の最優秀プロダクトはグローバル審査に進み、7月にロンドンでグローバルアワード表彰式が行われます。2/8〜9に日本では東京と名古屋と石巻で行われました。

石巻会場の運営主体となったのはHack For Japanで継続して支援しているイトナブということもあり、石巻会場で参加した及川、高橋の両スタッフは「石巻の若者をロンドンに連れて行くぞ!」と勝手なる使命感に燃えて参加しました。しかし、その一方で、石巻の参加者とGoogle+ ハングアウトを通じた企画・運営会議やアイデアソンなどをする途中から「東京から来た大人だけが妙に熱くなっている」という状況は避けなければいけないとも思い始め、何をゴールにするかは少々悩ましい部分もありました。

ハングアウト経由で参加したアイデアソンには石巻の女子高生なども参加していました。東日本大震災を経験した中からアイデアを考えようということで、被災時のことを思い出して語ってくれました。口調はいわゆる今どきの女子高生。「まじやばいと思ったのー」とか「ちょー焦って」など。ですが、その内容は聞いているこちらの方が涙を流さずにはいられないような話でした。彼女を始めとする地元の若者が語ってくれた体験が心に響き、ハッカソンで勝者になることだけにこだわり過ぎるよりも、その純粋な想いを大切にしたいというのが、及川と高橋の両名が思ったことでした。

また、高橋の気持ちとしては、「及川さんは審査員としての役割があるので、何処かのチームを積極的に手伝うということは出来ない立場のはず。であれば、自分がどこかのチームの一員として技術的にガッチリとサポートしなければ」と「今回はスタッフ的な立場ではなく、ガチに開発者として参加させて下さい」とお願いしたのでした。

一方の及川は審査員メンターとしての参加ではあるものの、特定のチームではなく、全チームに対して公平にアドバイスすることは問題ないと事務局に確認をとっていましたので、石巻会場参加チーム全体のレベルアップを図り、ロンドンへの道を切り開くことを考えていました。そのため、本来ならば審査員としては2日目の審査までに会場入りしていれば良いのですが、運営も手伝うつもりで、前日入りしました。2日目の会場入りなど考えなくて正解だったことは後ほどわかります。

91年ぶりの大雪

石巻は東北地方の中にあるとは言っても、太平洋側に面していると言うこともあり普段はそれほど雪が積もることはありません。ところが今回はかなりの積雪に見舞われることとなり、1日目の最初は「東京は雪が積もっているらしいけど、こっちはまだカラッとしてるよ」などと余裕を見せていたのもつかの間、やがて降り始めた雪は全く止む気配を見せずどんどんと積もっていき、2日目の朝には「こんなに積もったのは91年ぶり」という状態になっていました。会場の商業高校に辿り着くこと自体が難しく、まずは会場に辿り着くことをハックしなければという状況でした。

そんな大変な雪の中ではありましたが、1日目の夜にはかまくらの中で開発するメンバーもいました。

チームと審査結果

1日目の最初のアイデアピッチからチーム分けがされました。ここでは最後の成果発表の順にチームを紹介します。

石巻では全部で7チームが編成されました。

最初に発表した石巻日日こども新聞チームは、「Anti-Disater MANGA」という名の子供の防災教育を目的としたアプリケーションを提案しました。これは石巻の子どもたちが作成した漫画を元にしたスマートフォンアプリケーションで、ただ見るだけではなく、キャラクターのカスタマイズなどを通じて子どもたちがより身近に感じられるような工夫を凝らしています。石巻の子どもたちの現実の被災体験を元にしたリアルな話を漫画というわかりやすいフォーマットで全世界に配信することを可能にしています。

2チーム目はTeam Y2でした。チームとは言うものの、1人チームで、ほかのチームにも所属しながら、個人として開発した「GIS Portal Site」を発表しました。これは発災時に重要となる地理情報システム(GIS)をよりリッチにするアイデアで、テキストだけではなく、グラフィックを多用することで利便性を高めることを目的としています。

3番目に発表したのはチームJAPAN。名前にJAPANを入れてしまうことから想像できるように、最初から日本代表になる気マンマンで乗り込んだチームです。災害時に優先度の高い課題を「情報のトリアージ」の形で優先順位付けするフレームワークである「Disaster Response Bootup Kit」を提案しました。ちょうど今テレビドラマにもなっているDMAT(Disaster Medical Assistance Team/災害医療派遣チーム)に支援を要求する立場になった人のために、状況や発災からの時間に応じてすべきことをToDoリストのように表示してくれます。発災時にはアプリケーションを使えない可能性が高いため、紙の形でオフライン利用にも対応しているのが特徴です。

4つ目のチームはハック商工です。石巻商業高校のメンバーと石巻工業高校のメンバーがタッグを組んだため、このチーム名になっています。このチームが提案したのは、「絆」。被災時に情報、その中でも家族の安否が最も知りたかったことだという学びから、Bluetoothなどのすれ違い通信で安否情報を交換しあうアプリケーションを考えつきました。各端末がピアツーピアで通信しあい、その通信結果を共有していくことで、地域の安否情報を蓄積するものです。

5つ目は石巻ARチーム。ARという言葉からわかるように、AR(Augmented Reality/拡張現実)を利用したアプリケーションを提案しました。すでに、石巻イトナブのメンバーが「つなっぷ」というAR技術を使って、スマートフォンのカメラをかざすと被災時の津波の高さをARで表示するアプリケーションを開発していましたが、それに避難訓練の要素を組み込み、各地で使えるようにしたものです。「つなっぷ」がパワーアップしたということで、名前は「つなプラ」です。今までの津波対策の避難訓練は津波が来る前に逃げることを想定したものでしたが、実際に今回の東日本大震災では警報が届かなかったり、警報があっても逃げ遅れてしまったなどで多くの被害者が出ました。このアプリケーションを使うことで、津波の脅威をより身近に感じてもらうことができます。

6つ目は、「チームじぇじぇじぇとじゃじゃじゃ」。これは釜石と久慈の混合チームです。釜石は「釜石の奇跡」という名前で知られているように、市内の小中学生の生存率が99.8%でした。しかし、一方で防災センターの周辺で多くの人が亡くなるという「釜石の悲劇」も起きています。チームの開発した「D2RPG(DISASTER DRILL ROLE PLAYING GAME)」は防災教育をRPGの形式で行うものであり、スマートフォンやWeb、さらには紙媒体でのゲームブックでの展開も考えたものです。

最後の7チーム目は「Disaster survival toolbox」(プロジェクト名も同じ)。これは災害時に身近なものを組み合わせてピンチを切り抜けることを目的としたもので、発災前にいろいろなノウハウを集約し、発災にはオンラインだけではなく、紙でも利用できるようにと考えられたものです。たとえば、電気もろうそくもない時にツナ缶にこよりを入れてランプにするなど。チームの合言葉は「これで君も災害時のマクガイバーだ!」。

成果発表では、プレゼンテーションとデモを行いましたが、他会場に中継していた関係上、必ずしも十分に時間が与えられていたわけではありません。そこで、審査員が審査をしている最中に、追加質問をしたり、デモをしてもらうようにしました。そのような議論を経て、上位3チームが選ばれました。以下がそのチームです。

1位 石巻ARチームの「つなプラ」
石巻で被災した体験を元にした津波の脅威をAR技術で実現している点が評価されました。また、すでにPlayストアに公開する予定があるなど、アプリケーションの完成度とプロジェクトの継続性もポイントとなりました。

2位 Disaster survival toolbaxチームの「Disaster survival toolbax」
同じく石巻での被災体験を元にしたノウハウの共有というアイデアが評価されました。オンラインだけでなく、紙などオフラインでの対応も考えている点など、実用性という点でも高く評価されました。1位のチームと比較した場合に、プロジェクトの継続性がやや弱く、アプリケーションの完成度も1位のチームほど高くなかった点が差を分けました。

3位 チームJAPANの「Disaster Response Bootup Kit」
発災時に必要となるタスクをあらかじめ明確にし、発災時には適切なアドバイスをしてくれるという実用性が評価されました。オンラインだけでなく、紙でのオフライン対応を考えている点も良く考えられていると評されていました。ただ、DMATへの支援要請をするというシナリオに絞り込むまでに時間がかかったのか、全体的に詰めがまだ甘く、具体的にどのように使われるかがまだ明確でない点などで3位という結果になりました。

以上が上位3チームです。1位の石巻ARチームは世界大会となるロンドンに向けて、国内の最終選考に進むことになりますが、そのほかのチームにも敗者復活のチャンスも残されています。

1位の「つなプラ」チームはこの記事の冒頭で触れたアイデアソンで出て来た被災体験の話が着想の元になっており、スタッフの高橋が宣言通りガチでエンジニアとして参加してイトナブの学生と一緒に開発しました。もちろん企画を練るメンバーも強力な布陣で臨んだ結果ですので技術面だけの成果ではありませんが、ハッカソンを推進するHack For Japanスタッフとして、そして石巻の若者を応援する一人として、ロンドンに行くためのスタートダッシュを切るお手伝いが出来たのは喜ばしいことです。まだまだこれから国内での最終選考に向けてブラッシュアップしていく必要がありますので今後も継続してサポートしていきます。

懇親会

東京から来ていた我々は2日目である日曜の夜に帰る予定で、本来ならハッカソン終了後の懇親会は途中で後ろ髪惹かれる思いで帰路につかなければならないはずでした。しかし前述した大雪のために石巻から仙台までの高速バスが終日運休になったことでその日も泊まらざるをえない状況となり、思いがけず一緒に頑張った仲間達とゆっくりと語らう時間が出来ました。イトナブから近いオープンスペースIRORIで開かれた一次会では八戸のせんべい汁や会津若松から参加したチームが持ち込んだ地酒も振る舞われ、大いに盛り上がりました。

イベントの様子を撮影した写真はこちらからご覧いただけます。
またダイジェスト版動画もYouTubeにて公開中です。

Hack For Japanスタッフ 高橋憲一&及川卓也

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